物理・上級編

東大物理は、
どこから考えればよいのか

複雑な問題を整理し、必要な知識を選ぶための視点


東大の問題だから、難しいとは限らない

物理の公式は覚えている。 基本的な問題なら解ける。 それでも、長い問題文や見慣れない回路が出てくると、 どこから考えればよいのか分からなくなることがあります。

今回取り上げるのは、 2022年度東京大学の物理第2問です。

台車に取り付けたコイルが磁場を通過する問題です。 最初はコイルと抵抗だけですが、 途中で電池とダイオードが加わり、 最後にはコイルが2本になります。

出典:2022年度 東京大学 前期日程 物理 第2問 (電磁誘導)

登場するものは増えていきますが、 使う物理の知識が特別に難しくなるわけではありません。

今、何を問われているのか。 そのために、どこを見ればよいのか。

この問題を通して、考え方を追ってみます。


まず、現象を分けて考える

コイルが磁場を通過するとき、 ずっと同じことが起きているわけではありません。

コイルが磁場に入るとき、磁場の帯がコイルの内側に収まるとき、磁場から出るときの違いを整理した手書き図
磁場に入る・磁場が内側に収まる・出る。 まずは3つの場面を区別する。
※中央の「V=0」は誘導起電力が0という意味です。 磁場の帯がコイルの内側に収まる間は、 コイルを貫く磁束が一定になります。
※図中の電池記号は誘導起電力を表しています。 記号の極性は同じ向きですが、 起電力が生じる辺が異なるため、 回路を一周する向きで見ると逆向きになります。

磁場に入るときと出るときでは、 誘導起電力の向きが逆になります。 磁場の帯がコイルの内側に収まっている間は、 コイルを貫く磁束が一定なので、 誘導起電力は生じません。

では、電池とダイオードが加わったら、 何が変わるでしょうか。

起電力が生じることと、 実際に電流が流れることは別です。 ダイオードがあるなら、 まず電流が流れる条件を確認する。

詳しく見る|誘導起電力とダイオード

この問題では、コイルの一辺の長さ \(L\) が 磁場の帯の幅 \(d\) より大きくなっています。 したがって、コイル全体が磁場内に入ることはありません。

コイルが磁場に入り始めると、 コイルを貫く磁束が増加します。 磁場の帯がコイルの内側に収まると、 磁束は \(BLd\) で一定になります。 その後、磁場から出るときには磁束が減少します。

磁束の増加と減少では、 誘導起電力の向きが逆になります。

ただし、設問Ⅱには電池とダイオードがあります。 誘導起電力の向きだけで電流を決めず、 電池の極性とダイオードの向きも確認します。

磁場に入るときは、 誘導起電力が電池の起電力を上回る条件で 電流が流れます。 一方、磁場から出るときには、 ダイオードが逆向きの電流を遮断します。

起電力を計算する前に、 どの場面で電流が流れるのかを見極める。 それだけで考えるべき場合を絞れます。


式から、何が読み取れるか

設問Ⅱでは、磁場に入るときの電流を求めます。 ここで、求めた式を少し変形してみます。

電流の式を終端速度との差で表し、その物理的な意味を考える手書きメモ
式を変形すると、電流が何によって決まるかが見えてくる。

電流は、台車の速さが \(v_\infty\) に近づくほど小さくなります。 つまり、台車を減速させる磁力も弱くなるということです。

では、台車が何周もすると、 運動エネルギーはどう変化するでしょうか。

周回を重ねるにつれて運動エネルギーの減少量が小さくなり、一定値へ近づく様子を考える手書きグラフ
1周ごとの減少量は一定ではない。 電流の式から、グラフの形を考える。

電流の大きさは、 台車の速さと終端速度との差で決まります。 差が小さくなるほど減速も弱まり、 台車の速さは終端速度に近づいていきます。 したがって、運動エネルギーも一定値に近づく形で減少します。

詳しく見る|電流と運動エネルギーの関係

終端速度を \(\displaystyle v_\infty=\frac{V}{BL}\) とおくと、電流は次のように表せます。

\[ I=\frac{BL}{R}(v-v_\infty) \]

電流が流れている間、 コイルには運動を妨げる向きの磁力が働きます。 その大きさは電流に比例します。

したがって、速さが終端速度に近づくほど 電流は小さくなり、 1周で失われる運動エネルギーも小さくなります。

磁場への進入中、コイルが距離 \(d\) だけ進む間に 磁力がする仕事は、電流をほぼ一定とみなせる 近似のもとで \(-IBLd\) と表せます。

\[ |\Delta K|\simeq IBLd \]

このため、運動エネルギーは 毎周同じ量ずつ減少するのではなく、 次第に減少量が小さくなります。

また、\(v=v_\infty\) では 誘導起電力と電池の起電力がつり合い、 電流は0になります。 逆向きの電流はダイオードが遮断するため、 電池によって再び加速することもありません。

運動エネルギーが近づく値は \(\displaystyle \frac12mv_\infty^2\) です。 途中の周回で突然一定になるのではなく、 1周ごとの減少量が次第に小さくなります。

グラフの形を考えるときは、 「エネルギーが減る」だけでなく、 「1周ごとの減り方がどう変わるか」を見ることが大切です。


前の小問で考えたことを使えないか

設問Ⅲでは、コイルが2本になり、 接続パネルも登場します。

回路が複雑になったように見えますが、 ここで最初から新しい解法を探す必要があるでしょうか。

設問Ⅲを設問Ⅱと同じしくみの回路が2つあると捉えられないか考える手書きメモ
新しい設定に見えても、 それまでに考えたしくみを利用できないか。

2本のコイルについても、 それぞれに生じる誘導起電力と、 電流が流れる条件を考える点は同じです。

そして、Ⅲ(2)では台車の速さの変化を求めます。

ここで思い出したいのが、 Ⅰ(2)で使った考え方です。

設問Ⅲの速さの変化を、設問Ⅰで使った運動エネルギーとジュール熱の関係から考えられないかという手書きメモ
Ⅲ(2)でも、Ⅰ(2)と同じ考え方が使えるのではないか。

大問の後半で手が止まったら、 前半の小問で何を考えたか、 何が分かったかを振り返ってみる。 そこに次の問題を解く手がかりがあるかもしれません。

詳しく見る|Ⅰ(2)とⅢ(2)の共通点

Ⅰ(2)では、 台車の運動エネルギーの減少を、 抵抗で発生するジュール熱と結びつけて考えました。

Ⅲ(2)でも基本的な考え方は同じです。 違うのは、2つのコイルと抵抗を扱うことです。

まず、それぞれのコイルに生じる起電力と、 ダイオードによって電流が流れる経路を確認します。

Q₃からQ₄へ移る間は、 ダイオードによってどちらの回路にも電流が流れません。 したがって、台車に磁力による減速は生じず、 \(v_1=v_2\) となります。

磁場への進入中、 各抵抗に流れる電流の大きさは、 問題の条件のもとで次のように表せます。

\[ I_1=\frac{v_aBL}{R_1}, \qquad I_2=\frac{v_aBL}{R_2} \]

ここで \(v_a\) は磁場通過中の平均の速さです。 磁場を通過する時間は、 速さの変化が小さいという近似から \(\displaystyle \Delta t=\frac{d}{v_a}\) と考えます。

2つの抵抗で発生するジュール熱を合計すると、

\[ \begin{aligned} Q &=(R_1I_1^2+R_2I_2^2)\Delta t\\ &=B^2L^2v_ad \left(\frac1{R_1}+\frac1{R_2}\right) \end{aligned} \]

一方、台車の速さが \(v_0\) から \(v_2\) に 変わるとき、運動エネルギーの減少量は

\[ \frac12m(v_0^2-v_2^2) =mv_a(v_0-v_2) \]

これをジュール熱と等しくおけば、 平均の速さ \(v_a\) が消えて、

\[ |v_2-v_0|= \frac{B^2L^2d}{m} \left(\frac1{R_1}+\frac1{R_2}\right) \]

という関係が得られます。 さらに \(R_1+R_2=6R\) という条件から、 減速量を最小にするのは \(R_1=R_2=3R\) のときです。

計算は長くなっても、 出発点はⅠ(2)と同じです。 運動エネルギーの減少を ジュール熱と結びつける考え方を そのまま利用しています。


問題を解くとき、何を見るか

何を問われているのか。 条件が変わって何が変わったのか。 前の小問で考えたことを使えないか。

こうした問いを重ねることで、 複雑に見える問題も整理しやすくなります。

今回の問題でも、 最初から特別な解法が必要だったわけではありません。

磁場を通過する現象を分けて考える。 電流の式から運動の変化を読み取る。 後半の設問では、前半で使った考え方を利用する。

いずれも、高校物理で学んだ知識を どう使うかという話です。

大切なのは、 与えられた情報を整理し、 今必要な知識を自分で選べるようになること です。

弘道塾では、答えが合っているかどうかだけでなく、 生徒がどの条件に注目し、 どこで考えを止めたのかを確認しています。

解説を聞いて理解するだけでなく、 初めて見る問題でも、 自分で考える道筋を見つけられるようになること。 それを物理の指導でも大切にしています。

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