生成AI・大学受験コラム|5分野の検証総括

生成AIは、大学受験の先生になれるのか?

数学・物理・化学、5つの検証から考えるAIとの学び方

執筆・監修:弘道塾 塾長
大学受験指導歴30年以上。数学・物理・化学を直接指導。

検証時期数学・物理・無機化学・有機化学・理論化学の5分野

この記事の要点

AIは「解いて説明する」だけなら、すでに頼れる存在です。

数学・物理・化学の5分野で確かめたところ、大学入試問題への解答や、生徒役の誤解を修正する支援に力を発揮しました。一方、説明を理解したことと、自力で解けるようになることは別です。

01解答・説明今回の対象問題では、適切な解答や説明が得られた
02誤解への対応誤答を指摘できた一方、採点や問い返しに差もあった
03学力への接続答案確認と自力での解き直しが欠かせない

※検証対象は限られており、実際の生徒の学力向上を測定したものではありません。

5分野の検証から分かったこと

AIの能力は、学習内容によって評価が変わる

生成AIは、大学受験の勉強にどこまで役立つのでしょうか。分からない問題を質問すれば解法を説明し、別の言葉で言い換えたり、練習問題を作ったりもできます。

そこで数学・物理・無機化学・有機化学・理論化学の5分野で、解答、説明、誤答への対応を確かめました。分野によって、特に役立った使い方も、気をつけたい点も異なりました。

数学では富山大学と大阪大学の入試問題を使って検証し、物理では単振動の可視化と入試問題への対応、無機化学では一問一答と採点、有機化学では知識確認と構造決定、理論化学では化学平衡と誤解への対応を取り上げました。

今回の結果を、各分野で確認できた強みと課題に分けて整理します。

分野確認できた強み残った課題
数学入試問題の解答、誤解の指摘数式入力の負担、継続指導は未検証
物理入試問題への対応、現象の可視化説明の過不足、ヒントの調整
無機化学知識確認、一問一答、入試問題への対応不完全な回答を正解とする場合がある
有機化学知識確認、構造決定、ヒントによる支援ヒントの量と難度の調整
理論化学入試問題の解答、誤答理由の確認誤解への対応差、用語・表記への注意

※検証条件は分野ごとに異なり、この表は正答率やAIの優劣を比べたものではありません。無機化学ではAI中心で知識を学びやすい手応えがありましたが、採点の厳密さには注意が必要でした。

使用したモデルは、主にClaude Opus 5.5とGemini 3.8 Flashです(無機化学ではClaude Sonnet 5.5なども使用)。上位モデルでどこまで対応できるかと、高校生が普段使いやすいモデルでどこまで学習に活かせるかを、あわせて確かめたいと考えました。結果として、使いやすいモデルでも入試問題の解答は正確で、違いが出たのは、答えを伏せて生徒の回答を待つといった対話の進め方でした。

生徒役は、大学受験指導の経験がある筆者が務めました。実際の高校生を長期間追跡した調査ではなく、AI全般の正答率や学力向上の効果を測定したものでもありません。以下は、限られた具体例から見えてきた可能性と課題の整理です。

知識を覚える、現象を理解する――AIが力を発揮する場面

AIは、知識を繰り返し確認したり、数式だけでは捉えにくい現象を視覚化したりする場面で役立ちました。次に重要なのは、回答を正しく評価できるか、学んだ内容を自分で使えるかという確認です。

無機化学知識確認を対話形式で進める

無機化学では、AIに一問ずつ出題させ、間違えた内容を再度確認する使い方を試しました。生徒の回答に応じて質問を続け、分からない知識をその場で説明してもらえることは、独学の利点になります。

一方、必要な内容が抜けた回答を正解と判定する場面もありました。採点の厳密さには、別途注意が必要です。詳しくは無機化学編の一問一答の検証で紹介しています。

物理数式の背後にある動きを見せる

物理では、単振動を説明するためにAIに動く図を作成させました。位置・速度・加速度の関係を動きと結びつけることで、数式だけでは捉えにくい現象を理解する手助けになります。

次の段階では、図を閉じても自分で運動方程式を立てられるかを確かめたいところです。物理編の可視化の検証では、この利点と注意点を扱っています。

分かりやすい解説を、自力で解く力に変えられるか

AIの説明が分かりやすくても、入試本番では自分で方針を決め、答案を完成させなければなりません。数学では解説を閉じて解き直すこと、有機化学ではヒントの出し方を調整することが重要になります。

数学説明を閉じた後に確かめる

数学編では、教科書・問題集を学習の基準とし、解説を読んでも分からない部分をAIに尋ねる方法を提案しました。三角比で正弦定理を使うために余弦定理が必要になる理由や、漸化式で差を足し合わせる意味を確認する、といった使い方です。

大切なのは、説明を読んで終わりにしないことです。解答を閉じて最初から解き直し、翌日や数日後にも自力で考えられるかを確かめます。漸化式の翌日の確認問題も、そのための一例です。

有機化学ヒントが多すぎても少なすぎても難しい

有機化学の構造決定では、分子式や反応条件など複数の情報を組み合わせます。AIは着目点を示して考えを整理する支援ができましたが、ヒントが具体的すぎれば生徒が考える部分を奪います。反対に抽象的すぎれば、手掛かりになりません。

有機化学編のヒントによる支援が示すのは、正解を説明する能力だけでなく、どこまで教え、どこから生徒に考えさせるかが重要だということです。

難関大学の入試問題にも対応できるのか

5分野のうち複数の検証では、大学入試問題を実際にAIへ提示しました。対象と結果を整理すると、次のとおりです。

分野・問題今回確認したこと
数学:2007年富山大学、2011年大阪大学Claude・Geminiともに対象の2題に正答
物理:2009年筑波大学Claudeが対象問題に正答。前問の結果を利用する指示では説明も簡潔になった
無機化学:2014年慶應義塾大学Claudeが対象の大問に正答
有機化学:「慶應大」と記載された教材の構造決定問題Claude・Geminiともに対象の全設問に正答
理論化学:2007年東京工業大学(現・東京科学大学)Claude・Geminiともに対象問題の設問に正答

※有機化学の出典は教材上の「慶應大」という表記に基づきます。大学の原題や実施年度まで確認したという意味ではありません。

数学では確率・漸化式と回転体の体積という性質の異なる2題、理論化学では化学平衡の問題で、両モデルが適切な解答を示しました。対象問題に限れば、AIの解答能力は高いと評価できます。

ただし、問題数は少なく、モデルや提示条件も統一されていません。今回正答したことから、難関大学の問題に常に正答できるとは言えません。正しい解答でも説明が冗長になる場合があり、指導では説明の量や順序も考える必要があります。

AIは、生徒の間違いを見抜き、考えさせられるか

模範解答を示すだけでなく、生徒の誤解を見つけて修正につなげられるかも確かめました。今回の検証では、意図的に不完全な回答や誤った理由を提示して対応を確かめました。誤りを指摘できる場面はありましたが、採点や問い返しが常に適切だったわけではありません。

無機化学・有機化学部分的な正解をどう扱うか

無機化学では回答の一部が欠けていても正解と判定される場面がありました。一方、有機化学では、酢酸エチルのけん化について「けん化、酢酸とエタノール」と答えた生徒役に対し、Claudeが反応名と生成物を区別し、生成物は酢酸ナトリウムとエタノールであると修正しました。有機化学編の検証で詳しく扱っています。

理論化学答えが正しくても理由が間違う

理論化学では、平衡移動の結論は正しくても理由が誤っている回答を試しました。Claudeは理由を掘り下げた一方、Geminiは誤りを十分に明示しない場面がありました。また全圧の計算で残存酸素を見落とす設定では、Claudeが一問ずつ質問して待つのに対し、Geminiは質問の答えまで自ら述べる場面がありました。理論化学編の誤答への対応に詳細があります。

数学考え方の誤りを指摘できるか

数学の検証では、富山大学の確率・漸化式で状態遷移の経路を見落とす誤答と、大阪大学の回転体の問題で動く線分の通過領域を楕円と取り違える誤答を提示しました。Claude・Geminiともに、今回のやり取りでは誤解を指摘し、考え直す方向へ導けました。詳しくは数学編の誤答への対応の検証で紹介しています。

ただし、数学では三角関数を含む式をチャットへ入力する負担も感じました。手書き答案の画像を使う方法は考えられますが、今回、その方法での検証は行っていません。また、長期的な対話を通じて生徒の理解が定着するかも未検証です。

誤答への指導には、正誤の判定、誤解の特定、生徒自身による修正の支援という異なる段階がある。

今回のAIはその一部で有効な対応を示しましたが、常にすべてができると確認したわけではありません。

検証結果とは別に、実際に対話して感じたこと

生徒役をして気づいた、AI学習のもう一つの難しさ

ここからは検証結果とは分けて、生徒役としてAIと対話した際に感じたことを述べます。

まず、生徒はAIに対して素直に「分からない」と言えるのでしょうか。AIからの問いにたまたま正解しても、理解したとは限りません。十分に分からないまま「分かりました」と返すこともあるでしょう。

もう一つは、通常のチャットでは、生徒が質問したり答案を見せたりしなければ、AIがその誤解に触れる機会が生まれにくいことです。今回はこちらが誤った考えを意図的に提示しましたが、実際の生徒は自分の考えが間違っていると気づいていない場合があります。

AIには「もっと簡単に」「ヒントだけ」「答えを教えて」と自由に頼めます。これは便利ですが、自分が受けたい説明と、自分に必要な説明は一致しないことがあります。

以前から、AIを教育に取り入れる際には、単にAIに任せるだけでよいのだろうかという疑問を持っていました。AIの能力が進歩した今も、生徒役として対話すると、適切な説明が返ってきても、生徒が必要な学習を進められるとは限らないと感じます。

これはAIだけの問題ではありません。人間による個別指導でも、生徒からの質問に答えるだけなら、本人が「分かっているつもり」になっている部分を見落とす可能性があります。質問への対応に加えて、途中式や答案、解き直しを通じて理解を確認することが大切です。

AIと人間の指導者は、どう役割を分けるのか

今回の検証から、AIを大学受験の学習から遠ざける必要はないと考えます。知識の確認、解説の補足、現象の可視化、入試問題への対応、誤答の分析など、利用できる場面は広がっています。

一方、学習をAIとの対話だけに任せればよいとも思いません。重要なのは、生徒自身が気づいていない理解不足を発見する機会を、学習の中に設けることです。

分からないところを質問し、説明を受けたら、解答を閉じて自力で解く。答案や途中式を確認し、必要なら前の単元に戻る。この流れを整えることが必要です。

人間の指導者の役割も、AIより上手に説明することだけではありません。学習状況を把握し、課題を見つけ、次に取り組む内容を判断し、自力で解けるかを確かめることにあります。ただし、人間の指導者なら必ずそれができるという意味でもありません。

弘道塾では、数学・物理・化学について、解答を説明するだけでなく、生徒が自分で考え、解けるようになるまでの過程を大切にしています。

CONCLUSION / 最終結論

結論――AIは、大学受験の先生になれるのか

AIは、大学受験の学習を支える有力な道具にはなります。しかし、今回の検証だけで、生徒の理解を継続的に見極め、学力向上まで導く先生の役割を十分に果たせるとは言えません。

AIは、問題を解き、説明し、生徒の誤りを指摘する場面でも力を発揮しました。それでも、正しい答えが返ってきたからといって、生徒の理解まで保証されるわけではありません。

生徒自身が気づいていない誤解をどう発見するか。説明を聞いた後、本当に自力で解けるようになったかをどう確かめるか。これはAIに限らず、学習指導全体に関わる課題です。

AIに任せられることは増えています。だからこそ、何を理解し、何をまだ理解していないのかを確かめる学習の仕組みが、これまで以上に重要になると考えています。

本記事の制作における生成AIの利用について

本記事と関連する5本の検証コラムでは、生成AIを検証の対象にしただけでなく、構成の整理や文章の作成・推敲にも活用しました。本記事の文章整理には、OpenAIのGPT-6を利用しています。

一方、どの入試問題を使い、どのような誤答を試すかという検証の設計と、その結果の評価は、塾長自身の指導経験をもとに行いました。AIの提案は、内容と表現を確認したうえで取捨選択しています。