AIを使って、物理はどこまで独学できるのか
物理は、AIに質問すれば理解できるのか
生成AIに物理の問題を質問すると、運動方程式を立てたり、計算過程を説明したりしてくれます。分からないところを何度でも質問できるのは、独学する生徒にとって大きな利点です。
しかし、正しい解説が返ってくることと、それを読んで物理が理解できることは別です。式を計算できても、物体がどのように動いているかイメージできないこともあります。
今回は、AIに単振動を最初から教えてもらう方法と、大学入試問題を自力で解き、分からなかった設問だけを質問する方法を試しました。
AIに物理の学習をすべて任せるより、自分で問題を解き、つまずいたところを質問する使い方が有望だと感じました。
実際の検証と、質問するときの工夫を紹介します。
AIに単振動を教えてもらう
高校数学の微積分を学習済みで、物理への応用には慣れていない生徒を想定し、AIに単振動を教えてもらいました。
一度に説明しすぎず、理解を確認しながら進めるよう指示すると、AIは短い説明と確認問題を組み合わせて進めました。位置・速度・加速度の関係を確認し、ばねの運動方程式へと進む流れです。
ただし、確認問題には直前の説明から答えを予想しやすいものもありました。正解すると次へ進みますが、誘導された問いに正解することと、初見の問題を自力で解けることは違います。
AIは物理を説明できます。しかし、生徒の理解を適切に判断しながら学習を進められるかは、別に考える必要があります。
検証の詳細:単振動の学習と理解確認
高校数学の微積分を学んだ生徒という設定で、説明を一度に増やさず、理解を確認しながら進めるよう依頼しました。
AIは段階的に説明しましたが、確認問題には直前の説明や図のヒントから答えやすいものもありました。正解しても、速度と加速度の関係を別の状況で判断できるとは限りません。
検証のポイント:説明の正しさだけでなく、理解確認の方法にも注意が必要です。
物体の動きを可視化できるのは大きな利点
一方、物理の学習でAIを使う大きな利点も見つかりました。物体の動きを図やグラフで可視化できることです。
単振動では、物体の位置・速度・加速度が時間とともに変化します。物体の動きと位置の時間変化を対応させれば、物体がどちらに動くか、どこで速さが最大になるか、加速度がどちらを向くかを観察できます。
今回の検証でも、ばねにつながれた物体の動き、位置の時間変化、速度・加速度の向きを同時に確認できる教材が得られました。
ただし、AIが作った図が常に正しいとは限りません。また、図を見て納得したことと、自分で問題を解けることも別です。
検証の詳細:単振動の動く図で確認したこと
動きとグラフを同時に見ることで、中心を通過するときに速さが最大になること、両端では一瞬速度がゼロになること、加速度は中心に向くことを確認できます。
静止画だけではつかみにくい時間変化を観察できる点は有用です。ただし、図の表示内容は物理法則と照合する必要があります。

分からない入試問題をAIに質問してみる
次に、AIに最初から授業を任せるのではなく、自分で問題を解いてから質問する方法を試しました。
使用したのは2009年の筑波大学の物理入試問題です。円錐形の容器の内側を運動する小球について、最後にその後の運動の様子を問う問題です。問題は画像データとしてAIに与えました。
(1)〜(4)までは自力で解けたものの、(5)が分からないという生徒役の設定で質問しました。AIは前の設問で求めた結果を利用し、なぜ小球が上下運動を繰り返すか説明できました。
ここで重要なのは、新しい計算を増やすことではなく、既に求めた結果が物理的に何を意味するかを読み取ることでした。
さらに「なぜ最初に上がるの?」「元の状態に戻ったとき、もう少し下がらないの?」と質問すると、AIはそれぞれに答えました。ただし、後者では保存則を使った長い証明まで追加されました。正しい説明でも、生徒に必要な範囲を超える場合があります。
検証の詳細:筑波大学の問題での質問と応答
生徒役:「(1)〜(4)は解けたのですが、(5)が分かりません。」
AI:前問で求めた結果から、元の位置に戻ると最初と同じ運動状態になり、運動が繰り返されると説明しました。
前問の結果:U = v₀、V = 0
追加質問:「(5)でなぜ最初に上がるの?」
AI:糸が外れると、もとの円運動を続けるための力が不足することを、前の設問の結果と結びつけて説明しました。
追加質問:「元の状態に戻った時はもう少し下がったりはしないの?」
AI:斜面方向の速度がゼロになり、上向きの加速度が生じると説明したうえで、エネルギー保存と角運動量保存を用いた別の証明も加えました。
検証のポイント:疑問には対応できていますが、説明が詳しくなりすぎることがあります。
出典:筑波大学 2009年入試・物理(円錐形容器内の小球の運動を扱う問題)。本記事では問題文・図を転載せず、検証に必要な概要のみ紹介しています。
誘導問題では、前の設問を利用するように伝える
大学入試の物理には、前の設問で求めた結果を次の設問に使う、いわゆる誘導問題があります。
そこで同じ筑波大学の問題を、通常の解説依頼と、前の設問の結果を使うよう明示した依頼の二通りで解かせました。
今回の比較では、通常の依頼でもAIは誘導に沿って正しく解けました。一方、誘導を意識させた方は、説明がより簡潔になりました。
AIが誘導問題を理解できないというより、必要以上に説明を広げる場合がある、と考える方が実態に近そうです。
検証の詳細:二つの指示文と回答の比較
① 通常の依頼
この大学入試の物理の問題を、(1)から(5)まで解説してください。
前の設問の結果を使って正答しましたが、最後の設問では補足説明も追加しました。
② 誘導を意識させる依頼
この大学入試の物理の問題を、(1)から(5)まで解説してください。各設問は、前の設問で得られた結果をできるだけ利用し、出題者の誘導に沿って解いてください。別解は必要ありません。
こちらも正答し、前問の結果を利用した簡潔な説明になりました。
※各条件での一回の比較です。すべてのAIや問題で同じ差が出ることを示すものではありません。
物理の独学でAIをどう使うか
今回の検証からは、問題集を自分で進め、分からないところをAIに質問する方法が実用的だと感じました。
- まず自分で解く。図を描き、力や運動を考え、どこまで解けるか試します。
- 分からない箇所を絞る。問題を撮影した画像などを添付し、どの設問まで解けたか伝えます。
- 説明が難しければ短くしてもらう。新しい公式を増やさず、既に分かっていることを使って説明するよう頼みます。
- 動きが分からなければ図を頼む。必要ならグラフや動的な図で確認します。
- 最後は自分で解き直す。AIの説明を閉じ、問題集に戻って確かめます。
そのまま使える質問文
分からない設問を質問する添付した物理の問題について、( )までは自分で解けましたが、( )が分かりません。前の設問で求めた結果を利用して、考え方を説明してください。
説明が難しすぎるとき説明が少し難しいです。新しい公式や考え方をできるだけ増やさず、ここまでに分かっていることを使って、もっと短く説明してください。
運動の様子が想像できないとき物体が実際にどう動くのかイメージできません。図やグラフで説明してください。可能なら、時間とともに変化する動く図にしてください。
問題文をすべて入力し直さなくても、画像を添付して質問できます。ただし、AIが図や数式を正しく読み取っているかは確認してください。また、AIの解答や図には誤りがあり得るため、問題集の解答・解説とも照合しましょう。
結論――AIは物理の質問相手として有望
今回の検証では、AIは分からないところへの質問に対応し、説明の仕方を変えたり、物体の動きを可視化したりできました。
一方、AIに学習の進行を任せると、理解確認が十分でないまま進んだり、必要以上に詳しい説明になったりすることがありました。
物理では、AIに勉強を全面的に任せるより、問題集を中心に学習し、つまずいた箇所を質問する使い方が有望です。
AIの説明を読んで納得することを終点にせず、自分で問題を解けるようになるために使うことが大切です。
検証時期:2026年10月。使用したAI:Claude Opus 5.5。単振動の学習支援と可視化、筑波大学の入試問題への質問対応、誘導問題の解説を検証しました。今回は物理に詳しい人間が生徒役となって行った検証であり、実際の高校生が同じように質問できるか、説明を理解して解けるようになるかまで確認したものではありません。結果は今回の検証条件によるものです。